妊活・不妊治療をしている女性やその夫がインフルエンザの予防接種を受ける場合、その後の子作りに影響しないか心配になると思います。

インフルエンザワクチン接種により不妊になったり、予防接種直後の妊娠で赤ちゃんに悪影響が出たりするのではないかと考え、予防接種をするかどうか悩んでいる人もいるかもしれません。

結論をいうと、妊活中はインフルエンザの予防接種をしても問題ありません。それよりも、予防をせずにインフルエンザにかかってしまう方が悪影響が出る可能性が高まります。

そこで、もし妊娠中や妊活中にインフルエンザにかかった場合にどのような影響が出るのかを解説します。また、妊活中のインフルエンザの予防接種の安全性や、感染してしまった場合に処方される薬の安全性についても説明します。

妊娠中のインフルエンザ感染は母子ともにリスクが上昇する

妊娠中の女性はインフルエンザにかかりやすく、重症化しやすいといわれています。当然、これには理由があります。

女性は妊娠すると、免疫力が通常よりも下がります。さらに妊娠初期はつわりなどで体力が低下しやすいです。

このような状態でインフルエンザに感染してしまうと、通常よりも症状が重くなる可能性が高まります。重篤な肺炎などの合併症を引き起こすこともあり、最悪の場合は命に関わることもあります。

妊婦がインフルエンザに感染すると、一般の人と比べて集中治療室(ICU)を必要とするリスクが10倍高まるとWHO(世界保健機関)は勧告を出しています。

また妊婦のインフルエンザが重症化すると、本人だけでなく、生まれてくる赤ちゃんの健康にもかかわる可能性があります。インフルエンザが重症化した妊婦から生まれた赤ちゃんは、早産になったり小さく産まれたりする割合が高くなることが知られています。

妊婦のインフルエンザ感染と生まれてくる赤ちゃんの健康についての調査があります。(Kim Newsome et al., Birth Defects Research, vol.111, pp.88-95, 2019)

その結果、インフルエンザが重症化したお母さんから生まれた赤ちゃんは、早産の割合が3.9倍に、出生時の体重が2500g未満となる体出生体重児の割合が4.6倍と高くなることがわかりました。

早産や低出生体重で生まれると、通常よりも体の機能が未熟な状態で生まれることになります。医療の進歩によって、早産や小さく産まれた場合でも問題なく成長できることがほとんどです。ただ、通常と比べて治療を必要とするリスクは高まります。

また、妊娠初期にインフルエンザに感染すると、生まれてくる赤ちゃんに奇形を生じる割合が増えるという報告もあります。(J.M.Luteijnet et al., Human Reproduction, vol.29., pp.809-823, 2014)

この報告によると、妊娠初期に女性がインフルエンザに感染すると、赤ちゃんに異常が生じる確率は、インフルエンザにかかっていない場合と比べて2倍になりました。

インフルエンザにかかっていなかったとしても、赤ちゃんに奇形などの異常は通常1.8%程度の頻度で起こります。しかしインフルエンザに感染すると、そのリスクが2倍になるので3.6%程度となります。

インフルエンザにかかったからといって必ずしも悪影響が出るとは限りませんが、少しでもリスクを下げるために、妊活中からインフルエンザにかからないよう予防することは大切です。

妊活中の女性や男性がインフルエンザに感染した場合はどうなるのか

まだ妊娠はしていないけど妊活や不妊治療をしている場合、インフルエンザにかかるとどのような影響が出るのでしょうか。インフルエンザの感染によって妊娠しにくくなったり、インフルエンザ直後に妊娠した場合に赤ちゃんに悪影響が出たりするのではないかと心配になります。

以下に、妊活中の女性がインフルエンザに感染した場合の影響について解説します。

妊活中の女性がインフルエンザに感染した場合の影響

妊活中の女性がインフルエンザにかかった直後に妊娠が成立した場合、おなかの赤ちゃんに奇形や障害が出るのではないかと心配になります。しかし、インフルエンザに感染した時期が排卵後14日目よりも前の時期であった場合は奇形や障害のリスクがあがることはありません。

もし、排卵後14日までの時期に受精卵が何らかのダメージを受けたとすると、そもそも着床しなかったり初期流産となったりして育つことができません。または、完全に回復して全く影響を残さないこともあります。

妊娠が成立している時点で完全に回復しているはずなので、奇形や障害のリスクが上がることはありません。

一方で、排卵後14日までの時期にインフルエンザにかかることで、着床率や妊娠率が下がる可能性はあります。インフルエンザで高い熱が出ることで、受精卵にダメージが出る可能性があるからです。ただ、具体的に妊娠率がどれくらい下がるかなどは明らかになっていません。

それに加え、妊活中の女性がインフルエンザにかかると、そもそも妊活どころではなくなる可能性があります。

例えば、排卵日付近にインフルエンザにかかってしまうと夫婦生活ができなくなってしまい、妊娠のチャンスを逃してしまいます。不妊治療中であれば、他の人に感染するのを防ぐために不妊外来への受診は控えるよう指示されることもあります。

せっかく妊活のために食べ物や生活に気をつけたり、不妊治療のために薬を飲んだりしていたとしても、肝心なときにインフルエンザにかかってしまってはその努力も無駄になってしまう可能性があります。

男性がインフルエンザにかかると精子の状態が悪くなる

旦那さんがインフルエンザに感染すると、精子の状態が一時的に悪くなり妊娠しにくくなるといわれています。

男性の精子はとても熱に弱いです。精子を作る精巣(睾丸)は、通常は体温より2~4℃程度低い状態が最適といわれています。

インフルエンザにかかると高熱が出ます。高熱が出ると精巣の中の精子が高温になり、熱によるダメージを受けてしまいます。するとその後しばらくは精子の量や運動率などが低下し、精子の状態が悪くなってしまいます。

精子が新しく作られるためには約8週間かかるので、一度熱によるダメージを受けると元に戻るまで約8週間かかります。高熱が出た後8週間程度は精子の状態が悪く、妊娠しにくくなる可能性があります。

ただ、妊娠の可能性がゼロになるわけではありません。また、夫のインフルエンザ感染は生まれてくる赤ちゃんの奇形などには関係しません。

少しでもチャンスを無駄にしたくない場合は、旦那さんの精子の状態が元に戻る8週間を待たずに妊活にチャレンジしても問題はありません。ただ、体外受精や顕微授精といった高度な不妊治療をしている場合は、少しでもいい状態で行えるように精子の状態が回復するまで待ったほうがいいかもしれません。

インフルエンザの予防接種は妊活中でも大丈夫

妊娠を目指す人は、女性も男性もインフルエンザにかからないようにしっかり予防する必要があります。予防する方法として、インフルエンザワクチンの予防接種があります。

インフルエンザワクチンは、ウイルスを殺して感染する力や毒性をなくし、免疫をつけるために必要な成分だけを残したものです。したがって、ワクチンを注射してもインフルエンザに対する免疫がつくだけで、インフルエンザに感染するわけではありません。

妊活中の男女が予防注射をしたとしても、インフルエンザに感染したときのような悪影響が出ることはありません。

以下の写真は、ある不妊治療専門のクリニックの待合室に実際に掲示してあった張り紙です。

このクリニックでは、このような張り紙が10月~3月頃まで張ってありました。このクリニックではインフルエンザの予防接種は行っていませんが、不妊治療専門のクリニックであっても「予防接種は問題ない」という見解です。

これらのことからも分かるように、インフルエンザの予防接種は妊活や不妊治療をしていてもいつでも受けることができます。むしろ、これから妊娠を目指す人にとっては積極的に受けるべきです。

インフルエンザワクチンは妊娠中でも安全に使用できる

インフルエンザ予防接種は妊婦に対する安全性が確認されており、妊娠週数にかかわらず使用できます。インフルエンザに感染したときのような早産や奇形などの悪影響がおなかの赤ちゃんに出る心配はありません。

国立成育医療研究センターという機関が行った、妊娠中のお母さんのインフルエンザ予防接種の安全性に関する調査があります。(感染症誌 vol.84, pp.449-453, 2010)

その結果、妊娠週数にかかわらず、赤ちゃんの流産や早産、奇形などの割合が増加することはありませんでした。また、妊婦さんに重い副反応が出ることもありませんでした。

このことから、妊娠中であってもインフルエンザワクチンは安全に使用できるといえます。妊活中でインフルエンザワクチン接種後すぐに妊娠したとしてももちろん大丈夫です。

インフルエンザの予防接種で不妊になることはない

妊活中にインフルエンザの予防注射をする場合、ワクチン接種によって妊娠しにくくなるのではないかと不安になる人もいるかもしれません。人工授精や体外受精、顕微授精といった不妊治療をしている人であれば、人工授精や採卵、胚移植などの周期に予防注射をすると治療に影響があるのではないかと心配になるかもしれません。

しかし、妊活中の女性がインフルエンザの予防接種をすると不妊になるという報告はありません

インフルエンザワクチンは、インフルエンザのウイルスの毒性や感染する力をなくし、免疫をつけるために必要な部分だけを残したものです。免疫とは、外から入ってくるウイルスや細菌などの敵から体を守るためのシステムです。

インフルエンザに限らず、私たちはたくさんの細菌やウイルスなどに毎日囲まれて生きています。したがってインフルエンザのワクチン接種をしたときだけに限らず、常に細菌やウイルスなどから体を守るために免疫は働いています。

もし、インフルエンザのワクチン接種で免疫をつけることが不妊につながるとすれば、そのほかの細菌やウイルスなどから体を守るために免疫が働いていることすら不妊につながる可能性があることになります。もしそうだとすると、無菌室で育った人しか子供を持てないことになります。

しかし実際はそのようなことはありえません。ですから、インフルエンザのワクチン接種で不妊になるのではないかと心配する必要はありません。

女性の予防接種によって排卵や着床が妨げられたりホルモンバランスが乱れたりすることはありません。卵子の質が落ちることもありません。妊活中でも、低温期や排卵日、高温期など、生理周期のどのタイミングで予防接種を受けても大丈夫です。

また、人工授精や体外受精、顕微授精といった不妊治療中であっても治療の妨げとなることはありません。不妊治療で使用される排卵誘発剤やホルモン剤などの薬との併用も問題ありません。採卵前や胚移植前、胚移植後など、どのタイミングでも大丈夫です。

また、男性がワクチン接種をしても精子の質が悪くなったり不妊になったりすることはありません。

男女ともに、妊活や不妊治療中でもインフルエンザの予防接種をうけて大丈夫です。

いつ、どこで予防接種をすればいいのか

上記の通り、妊活中や不妊治療中であっても、生理周期や治療周期にかかわらずどのタイミングでワクチン接種をしてもかまいません。ただ、インフルエンザの流行時期と予防効果の出る時期が合うようにする必要があります。

インフルエンザの予防接種をしてから効果が現れるまで2~3週間ほどかかります。効果が続くのはその後3~4ヶ月程度です。

インフルエンザが流行する時期は通常12月下旬~3月頃です。この時期に効果が出るようにするためには、流行前の10月~11月頃、遅くとも12月上旬までには予防注射をする必要があります。

予防接種を受けられる場所は、内科、耳鼻科、産婦人科などの医院や病院です。整形外科や眼科、皮膚科など、インフルエンザとあまり関係がなさそうな科でも予防接種を行っている場合もあります。

病院によっては予防接種を行っていなかったり在庫がなかったりする場合もあります。行く前に電話などで確認するようにしましょう。

料金は医療機関によって異なりますが、3000~6000円程度の場合が多いです。健康保険はきかないので全額自己負担となります。

私の場合は、職場の近くの病院で予防接種を行いました。内科、外科、整形外科のある病院です。私が勤めていた会社には、指定された病院で予防接種を受けるとその費用の全額を会社が負担してくれるという制度があり、それを利用しました。

以下の写真は明細書です。金額は5400円でした。

この病院では10月中旬頃からインフルエンザ予防接種の受付を行っていました。私が予防接種を行った時期は11月上旬で、体外受精の移植周期4日目でした。この日の2日前からホルモン剤の飲み薬や貼り薬を使用していました。

予防接種の10日後に不妊治療のクリニックを受診し、ホルモン値の検査をしました。以下は検査結果の写真です。

ホルモン剤の効果が十分出ており、胚移植を行うのに問題ない数値でした。インフルエンザの予防接種をしたからといってホルモン値に特に異常はありませんでした。

また、特に重い副反応が出たり体調が悪くなったりすることもありませんでした。以下の写真は注射したすぐ後の写真です。ほんの少し赤くなってかゆみが出ましたが、2日後には治まりました。

インフルエンザにかかってしまった場合の治療薬について

予防接種をしたとしても、インフルエンザの感染を完全に防ぐことはできません。予防に気をつけていたとしてもインフルエンザにかかってしまうことはあります。

妊娠の可能性のある妊活中に薬を飲むとおなかの赤ちゃんに悪影響が出るのではないかと心配になります。高熱やつらい症状が出ても我慢しようと思うかもしれません。

しかし、我慢することで症状が悪化してしまい、かえって赤ちゃんにとって悪影響が出てしまう可能性があります。そうなる前に早く薬を飲んで早く治した方が得策です。

インフルエンザにかかったときに病院で処方される薬には大きく分けて2種類あります。一つはインフルエンザのウイルスを抑える薬です。もう一つは、発熱や頭痛、関節痛などの症状を和らげる薬です。

インフルエンザのウイルスを抑える薬として、タミフル(一般名;オセルタミビル)、リレンザ(一般名;ザナミビル)、イナビル(一般名;ラニナミビル)、ゾフルーザ(一般名;バロキサビル)などがあります。

このうち、タミフル、リレンザ、イナビルは、妊娠中でも安全に使用できることがわかっています。以下は、タミフル、イナビル、リレンザの写真です。

日本産婦人科学会は、妊娠中にこれらの薬を使用しても、赤ちゃんの奇形や流産、早産などのリスクは増加しないという調査結果を出しています。

以下は、ゾフルーザの写真です。

ゾフルーザは2018年3月に発売された薬です。他の3つと比べて妊娠中に使用したときの安全性についてはまだ明らかになっていません。

また、熱を下げたり痛みを抑えたりする薬としてカロナール(一般名;アセトアミノフェン)などがあります。以下はカロナールの写真です。

カロナールは妊娠初期でも安全に使用できることがわかっています。妊娠中に飲んでも赤ちゃんの奇形や流産、早産などのリスクは増加しません。

このように、妊活中で妊娠の可能性があるときにインフルエンザになってしまっても安全に使用できる薬があります。インフルエンザによる悪影響が出る前に、これらの薬を飲んで早く治しましょう。

まとめ

妊娠中にインフルエンザに感染すると重症化しやすく、母子ともにリスクが上昇します。妊娠初期に感染すると奇形などの悪影響が出る可能性が高まります。

また、妊活中にインフルエンザになると、高熱のために妊娠率が下がる可能性があります。男性がインフルエンザにかかると、熱によるダメージで一時的に精子の状態が悪くなります。

妊活中は男女ともにインフルエンザにかからないようにしっかり予防する必要があります。

妊活中や不妊治療中はいつでもインフルエンザの予防接種をすることができます。インフルエンザのワクチン接種で不妊になることはありません。また、ワクチン接種の直後に妊娠しても生まれてくる赤ちゃんに悪影響はありません。

こうしたことを理解したうえで、妊活中はインフルエンザの予防接種を受けるようにしましょう。